あ、と叫ぶ間も無かった。
頬を殴られ吹っ飛ぶショウタ。ハァ、ハァ、と大きく肩で息をしているリーフの右手には拳が握られていた。唖然とする観衆。まさに一瞬の隙だった。ショウタがちょこまか動いて接近し、“かみつく”を仕掛けようとした瞬間、リーフはそれをヒラリとかわし、横から拳を叩き込んだ。攻撃が読めていたのだろうか。これまでとは違う動きに誰もが驚いていた。
「……ようやく」
ショウタが起き上がる前にリーフは何かを呟いた。
「ようやく……殴れたぜ……」
ニッと口の縁を上げ、勝ち誇ったような表情になる。まるでこの展開を待っていたかのようだ。一瞬天を仰ぐ。
(メブキ──)
リーフは最初から決めていた。拳で殴るまでは他の技を使わないと。それは自分にとって大切なメブキを怪我させたショウタへの怒りであり、自分自身のプライドでもあった。例えお門違いだと言われようと関係ない。一発殴らなければ自分の気持ちが収まらなかったのだ。
理不尽なのはショウタの方だ。あれは事故であって怒りを自分に向けられる筋合いは無い。しかし今は正式なバトルだ。攻撃は正当だ。しかしショウタはこの拳の意味を理解してしまった。それに、自分の攻撃を見切られてしまった。何と表現したら良いのか分からないショックで頭が固まり、動きも止まった。
(もし、かして)
リーフの表情を見てショウタは悟った。
(俺の攻撃、見破られてた……?)
そんな筈はない、そう自分に言い聞かせて再び立ち上がり、リーフに向かって駆け出す。どちらにしたってダメージは向こうの方が上、自分が有利なのは変わらない筈だ。そう思って次なる一連の攻撃を繰り出した。
ところがその予感は的中した。“かみつく”は避けられ、“みずでっぽう”は当たらず、更には“れいとうビーム”すらかわされる。さっきまでとはまるで違う動き。その攻撃の最中、一瞬見えたリーフの横顔は、先に自分がしていたしてやったりの表情だった。
(何で……どうして……!?)
焦るショウタ。しかし攻撃は外れ、“リーフブレード”を連続して当てられる。
「形勢逆転──だな」
確信したようにウィンが呟く。隣でドンすけは呆気に取られて口をポカンと開けたままにしていた。
「リーフは待っていたんだ、ショウタを殴れる機会を。──まぁ、攻撃まで最初から読めていたとは思わないが」
「………」
言葉を失った。殴る、それだけの為に? 正直理解出来ない。それ程までにリーフはショウタを恨んでいたのか。思わず頭の上のゴーグルに手をやる。
「信じらんねぇよ」
思わず漏れた言葉に嘘は無い。
リーフ。ドンすけは心の中で問いかけた。
──トドメの“リーフストーム”が炸裂した時、劇的な勝負は幕を閉じた。
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日本で数少ない地学系統に入る為に1年を平気で棒に振るようなお馬鹿さん。
将来の夢は古生物学者兼小説家。
平凡な人生を嫌う、My pace な駄犬。最近ドラゴン。